浅草六区の夕暮れ時、昼間はにぎやかな芸人さんの声が止んだころ。
路地をのぞくと、行き止まりに温かな光が見えます。
東京蛍堂さんは、知る人ぞ知るアンティークの名店。
中々おもしろい商品がそろうだけでなく、気さくに話してくれる店主夫婦を含め、空間全体に充満する不思議な魅力に、吸い込まれてしまいそうです。
小さなワンダーランドには手作りのダンスホールも
入ってみると、これまた蛍のようなランプの群れ。
すべて、東京蛍堂さんの商品です。
奥に行けば、半地下のダンスホールも。
レンガも床も、店主夫婦が自分で仕上げた手作りのレトロ空間。
少し店内を見て回っただけで、異次元に迷い込んだような気分になります。
ここは確かに浅草なのか? 本当に21世紀の六区?
分からなくなってしまいます。
大正ロマンに誘われて
モノでいっぱいの店内には、ノイズの混ざった古い音楽が流れています。
iPhoneに保存した音楽データを、トランスミッターから古物のラジオ(もちろん売り物)に転送し、ラジオのアンプを通して音を出しているそうです。
いかにもノスタルジックなメロディが、ノイズでぐっと雰囲気を増します。
「単なる懐古主義は好きじゃない。新しいものと古いものが融合して未来になる」と、店主の稲本淳一郎さんは言います。
東京蛍堂さんのテーマは大正ロマン。もちろん、前後の時代の骨董もありますが、往年の浅草を思わせるレトロな品がぎっしり。
古い帯締めやアクセサリ、
ラジオや器械の類、
洋服、和服、
仕掛けがむき出しになった時計、
誰のものかよくわからない記念写真まで、
とにかくいろんなものがあります。
一見、脈絡がないようです。
しかし、ほとんどの品物は鑑賞用ではなく、ふだん使いできたり、気軽に見られるという点で、共通するところがありそうです。
触れる・体験できる
東京蛍堂さんの大きな特徴は、なんでも触ってOKなこと。
ショーケースにしまってある商品でも、気兼ねなく店員に声を掛け、出してもらってください。
もちろん洋服を着てみたっていいし、三味線も弾けます。
稲本さんが、ふだん仕事している席へ特別に座らせていただきました。
こちらは愛用のミシン(売り物)。
「ここがおれの秘密基地」という稲本さんが見ている景色です。
蛍のような人とは? 稲本淳一郎さんのコトバ
不思議な空間をつくった稲本さん自身も、とても不思議な気分、けれど前向きな気持ちにさせてくれる方です。
「どうして『東京蛍堂』にしたのですか?」と店名の由来を聞くと、
「東京に蛍はいないけれど、蛍のような人はまだいるんじゃないかと。そんな人たちのために、寺子屋のような勉強の場にしたかったんです。蛍がすめるような純粋な水が保てるように、東京蛍堂と名付けました」
「蛍のような人ってどんな人ですか?」と聞いてみると、
「着物がほつれたら、昔の人は縫って直したんです。ぼくは、その心にキュンとするんです。今、ここでほつれた着物を扱っていると、蛍じゃない人は値切っちゃったり(笑)。でも、『気持ちを受け継ぎたい』と、喜んで買ってくれるお客様もいらっしゃいます。そんな方を見ると、ああ蛍だなあ、と」
わかったような、わからないような……。でも、稲本さんをわかった風に紹介してもあまり意味はなさそうです。
短い時間、お聞きしたコトバをそのまま記録しようと思います。
―住み込みで新聞配達、社交ダンスのお相手、ヒーローの悪役、タクシーの運転手、デスメタルバンド、いろいろやったなあ
―自分が信じる仕事と、屋根があって食えるだけあればいいと気づいた
―日本の音楽は滝廉太郎で止まっている
―勉強しながら自分のルーツを探っている。研究材料として骨董が一番いいと思った
―古いものを見て、例えば女子高生は「超カワイイ」とか「ヤバイ」とか言って喜んでくれる。お母さんは「これ使ってた」と言い、おばあちゃんは「まだ家にあるよ」と。三世代がつながるんです。普遍的ないいものってつながるんだよな
―これからが大変なんですよ
―江戸時代の着物だとコスプレになっちゃうけど、大正ロマンなら和洋が融合する。今の時代にとっても合ってるんですよ
―電気はそんなにたくさんいらない。ウチにはたくさんかかってるけど
―どんな人生送ってきたんですか? まあ、ざっと、かいつまんで
―男なら直せ
―ホントはバイクをこのあたりから出動させたいんですよ。ここがバカっと開いて、疾走していく……
明るくて、笑顔のステキな奥様との、なれそめ話も楽しいです。ぜひ、お店に行って聞いてみてくださいね。
東京蛍堂の営業時間、アクセス
店名:東京蛍堂
電話:03-3845-7563、または090-5438-4223
営業時間:11:00〜20:00
定休日:月・火曜定休・祝日は営業
住所:東京都台東区浅草1-41-8
東武スカイツリーライン・東京メトロ銀座線浅草駅から徒歩7分、つくばエクスプレス浅草駅から徒歩3分。
私も行って来ました!
先日、友人と浅草散歩の途中偶然に小路の先にあるステキな入口を見付けて、柔らかい光りに吸い寄せられて入ったら、正にドンピシャに好みの雰囲気、ステキな品々に大興奮でした!奥様不在でしたがご主人のお話しもとても楽しく、良い買い物も出来て大満足でした。是非また再訪させて頂く予定です!
ゆうさん、ありがとうございます。
蛍堂さんはじめ、六区は不思議なところです。
ぜひまた浅草にお越しください!