通称「待乳山聖天」は浅草寺の支院のひとつで、正式名称を「本龍院」といいます。

「聖天様」とも呼ばれ、古くから地元の信徒さんに親しまれている寺院です。

ユニークなしきたりと、月に1回の日曜勤行、写経の会を体験してきました。

東京で一番低い山??

浅草寺の北側、通称「奥浅草」にある小高い丘。
日本山名事典(三省堂)によれば、「待乳山」は標高10mで東京一低い山なんです。
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待乳山聖天の縁起によれば、6世紀後半、推古天皇の時代に、湧き出るように地中から盛り上がってできた霊山。そのときに、天から金龍が降りてきて、山を守護したそうです。
現代の待乳山には、隅田川側から本堂の脇へ上れるモノレールもあります。誰でも無料で利用できます。
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大根をお供えする

待乳山聖天といえば「大根」。
なぜ大根か? は後ほどご紹介するとして、秘仏のご本尊の前に、こんもりとお供えされています。
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参拝者はお供えの後、塗香(身体に塗る粉末状のお香)で身を清め、ご本尊に手を合わせています。
大根は持ち込んでも構いませんが、境内でも購入できます。
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二股の大根は聖天様のシンボルになっています。
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境内に何本の大根がデザインされているか、数えてみるのも一興です。

シンボルマークは巾着

大根と並ぶ聖天様のシンボルが「巾着」。こちらも、境内のあちこちに見ることができます。

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本殿の入り口、二股大根と一緒に。
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大きな香炉も巾着。
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まだまだあります。
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縁結びと夫婦円満、商売繁盛にご利益

待乳山聖天のご本尊は「大聖歓喜天」です。大聖歓喜天は仏法を守護する仏教の神様で、「聖天様」と呼ばれ、多くの人に信仰されてきました。

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ご本尊は秘仏であり、私たちはお姿を見ることはできませんが、大根と巾着は、聖天様の福徳を現しています。
「生の大根を食べると、辛くて怒ったような顔になってしまいますよね。大根をお供えすることで、聖天様が心身を清めてくださいます」と、待乳山聖天の僧侶で総務部長の深谷昌広さん。
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二股の大根は、夫婦和合を現しているそうですが、そんないわれがあったのですね。
良縁成就のご利益もあり、縁結びのパワースポットとして紹介されることもあります。
巾着は砂金袋です。財福の功徳を現しており、商売繁盛のご利益があるとされています。

東京スカイツリーと日本庭園

境内には緑豊かな日本庭園も。
バックにそびえる東京スカイツリーと一緒に、季節の草花を楽しみたいところです。
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3月20日の待乳山便りによれば、池の畔のしだれ桜が咲いたといいます。春ですね。
静かな池で、ゆうゆうと鯉が泳いでいます。
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浮世絵にも描かれた築地塀

目立たない存在ですが、境内には 江戸時代に作られた塀が遺されています。
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土と瓦を交互に重ねて作られた築地塀は、歌川広重の浮世絵にも描かれました。
大震災も戦災も耐え抜いた堅固な塀です。

池波正太郎生誕の地

浅草ゆかりの文人として、必ず登場するのが池波正太郎。

「鬼平犯科帳」「仕掛人・藤枝梅安」など時代小説の傑作を数多く遺しました。

「池波正太郎生誕の地」の記念碑が、待乳山ふもとの待乳山聖天公園に建っています。

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碑によれば、池波正太郎の生家は、旧東京市浅草区聖天町61番地。聖天様のすぐ近くで、池波は自身のエッセーに「生家は跡形もないが、大川(隅田川)の水と待乳山聖天宮は私の心のふるさとのようなものだ」と記しています。

待乳山を中心に、独特な歴史の香りが漂う奥浅草。作家のイマジネーションを刺激する土地柄なのかもしれません。

誰でも参加できる日曜勤行

本堂に入り、お経を読み、さらに法話を聞くことができます。

毎月第2日曜日の午前9時から行われ、誰でも無料で参加できます。

体験じゃぱんも、おそるおそる勤行を体験し、その様子を取材させていただきました。

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20人ほどの参加者の皆さんと一緒に、観音経、般若心経を唱えます。

経本を貸し出してくれます。しかし、お経を読んだ経験は、葬儀のときの数回しかありません。

ついていくのも大変です。

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堂内に太鼓の音が響きます。もちろん、お経の意味はわかりません。

太鼓に合わせ、ただ読むことに集中します。

緊張もあったのでしょう、10分ほどの読経すると、どっと力が抜けました。しかし、気持ちはすっきり、心地よい疲労感です。

思えば、朝から10分も続けて声を出すことなど、日常生活ではまずないのです。

読経の後は、ご住職の法話をお聞きしました。

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昨日と今日では、違う自分になっているはず。同じお経でも、飽きることなどない。そのたびに新たな気持ちで読みなさい、と説かれました。

勤行に参加する敷居は、決して低くありませんが、わからないことは、お寺の方へ聞けば丁寧に教えてくれます。

お寺では、「お気軽にご参加ください」と案内されているので、興味のある方は素直な気持ちで体験してみてはいかがでしょうか?

誰でも参加できる「写経の会」

日曜勤行の後、月1回の「写経の会」が開催されます(毎月第2日曜日、午前10時~/午後1時~)。

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参加費は500円で、こちらも誰でも参加できます。

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墨とすずり、紙、お手本などは、用意されています。筆のみ持参しますが、ない人には貸し出してくれます。

塗香で身を清め会場の大広間へ。

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般若心経を皆で唱和した後に、お手本を書き写していきます。

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これは集中力が高まります!!

勤行のくだりの繰り返しになりますが、お経の意味はわかりません。

「色即是空、空即是色」と、知っている言葉に少しテンションが上がっても、本質的な意味なんて理解できるはずもありません。

ひたすら書くだけです。

物書きの仕事をしていますが、考えながら書くのがふつう。「書くだけ」という機会も、なかなかないものです。

50分後、書き終えた写経はお寺にお納めします。

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お手本を凝視してかたまった目を、しばしばさせながら会場を出ると、

「あら、すっきりた顔してるわね」

と、お手伝いのご信徒さん。

大変お世話になりました。

ありがとうございます。

まとめ

待乳山は、古くから絵画や和歌の題材にされた風光明媚なところ。

文人墨客たちが愛した名所は、景色や形は変わってしまいましたが、エッセンスが現代に受け継がれています。

大根をお供えして、お経を読み、写経してから、日本庭園を散策――。

日曜日の午前中、ふだんは中々できない体験を、一気にすることができました。

アクセス

名称:本龍院(待乳山聖天)

住所:東京都台東区浅草7-4-1

アクセス:東武スカイツリーライン・東京メトロ銀座線・都営浅草線浅草駅から徒歩10分。
浅草松屋前より、都営バス東42甲で南千住行「隅田公園」下車、 都営バス東42乙で南千住行「リバーサイドスポーツセンター」下車、循環バス北めぐりんで「隅田公園」下車。

電話番号:03-3874-2030