365日落語の寄席が開く浅草演芸ホールさん、同じく漫才やコント中心の浅草フランス座演芸場東洋館(東洋館)さん。

多くの芸人さんを輩出し、今も浅草に笑いの渦を巻き起こす「聖地」です。

2つの席亭(寄席の主人)・松倉由幸さんに、演芸ストーリーをお聞きしてきました。

寄席で笑うと悪いことができない

ゴールデンウィーク特別興行まっただなかの浅草演芸ホール。老若男女のお客さんで大盛況です。

前から三列目に座ると、高座を見上げるよう。

円熟の芸を間近に体感し、楽屋の挨拶まできこえてくる特等席です。

楽屋から出てくるだけでおもしろい(?)三遊亭歌之介さんには、客席から「待ってました!」のかけ声。

ご存じ、紙切りの林家正楽さんには、「藤娘!」「三社祭!」と、粋なお題のリクエストが飛び交います。

かっこいい寄席の作法、「いつの日かマネしたい」と切望しつつ、

東京ガールズさんの三味線と美声に聴き惚れ、

春風亭百栄さんの不思議なペースに飲み込まれ、

橘家圓太郎さんの外交官と寄席のネタ(?)にお腹を抱え、

林家彦いちさんのノンフィクション落語に手に汗握る――

観ているほうも、自然と身体が火照ってきて、冷たい缶ビールがうまい!!

昼の部主任(トリ)の林家木久扇さんが休演されたのは残念でしたが、ご子息の木久蔵さんが、代演でバシッと締めてくださいました。

特別興行は3,000円、ふだんは2,800円で、午前中に始まる昼の部から夜の部が終わる21時ごろまで、ぶっ通しで居座ってもOK。それで笑い疲れるほど笑えるなら、なんともお得なシステムです。

席亭の松倉由幸さんは、「ウチのお客様は良い方ばかりで、落ちている財布なんかもきちんと届けてくれる。たくさん笑って、気分良くなって、悪いことして帰ろうなんて気にならないんでしょうな」と言います。

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そのお客様の気持ち、体験じゃぱんもよ~く実感しました。

あの国民的コメディアンも六区で活躍

今、浅草の六区エリアは、エンタテインメントの街としてにぎわっています。

こうして栄えているのも、苦しい時代も営業を続けてきた浅草演芸ホールと、同じビルの東洋館の存在が小さくありません。どちらも、松倉さんの東洋興業さんが経営しています。

前身はストリップ劇場の浅草フランス座。踊りの間のコントで活躍した芸人さんから、たくさんのレジェンドが生まれました。

「寅さん」の渥美清さん、コント55号の「欽ちゃん」こと萩本欽一さんと「二郎さん」こと坂上二郎さん、今や世界の巨匠ビートたけしさん……浅草フランス座出身の有名人は枚挙にいとまがありません。

浅草演芸ホールは昭和39年(1964)に、浅草唯一の寄席として誕生しました。桂文楽さん、古今亭志ん生さん、三遊亭圓生さんなど、当時の名だたる名人が高座に上がり、前述のように伝統は今につながっています。

中でも、松倉さんが「強烈に心に残っている」という芸人さんが、古今亭志ん朝さんです。

志ん朝さんは、昭和53年(1978)に、伝統芸の「住吉踊り」を興行として復活させました。

以来、浅草演芸ホールで毎年公演され、夏の風物詩となっています。

座長として舞台を仕切ってきた志ん朝さんですが、2001年10月に亡くなってしまいます。

その少し前、志ん朝さんにとって最後となる8月の住吉踊りの興行中。

すでに体調を崩していましたが、志ん朝さんは毎日病院で点滴を受けてから浅草に駆けつけ、10日間の興行を見事に勤め上げたそうです。

その姿に「噺家魂を見せていただいた」と松倉さんは振り返ります。

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東洋館は平成12年(2000)に誕生しました。

落語中心の寄席・浅草演芸ホールに対し、いろもの(落語以外の漫才、漫談、マジックなど)専門劇場として人気を得ています。

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お笑いファンなら、きっとテンションのあがるこのエレベーター。

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たけしさんが、浅草フランス座時代に、エレベーターボーイを務めた所。

師匠の深見千三郎さんから教わった、タップを踏んでいた「あの」エレベーターです!!

ナイツさんやU字工事さん、ロケット団さんにねづっちさんなど、テレビでも活躍する気鋭の浅草芸人さんが、若手の頃から出演しています。

「東洋館のオープン当初は、いろものの定席がやってけるか、不安でした」と松倉さん。しかし、今では行列が開演前に列ができるほど人気の小屋に。
「漫才が見直され、たくさんのお客様に知っていただけるようになりました。大きなきっかけは、ナイツがブレイクしたこと。浅草出身の芸人だと、テレビでも大々的にしゃべってくれていますから」(松倉さん)。

浅草には芸人さんを育てる土壌がある

浅草フランス座は、芸人さんと専属契約を交わしていました。

売れている芸人さんが出演するだけでなく、自社の芸人さんを育てる土壌があったと、松倉さんは言います。

今の浅草演芸ホール、東洋館に専属制度はありませんが、伝統は受け継がれています。

「芸人さんに憧れて、浅草演芸ホールや東洋館で働きたいとやってくる人がいます。職員ですから、舞台に上がったりはしませんが、少しでもお笑いのそばで働きたいのでしょう。

当社では、1年働けば好きな道に進んでよいことにしています。浅草演芸ホールや東洋館のスタッフを卒業して、芸人として活躍し、出演者として戻ってくる人もいるんです」(松倉さん)。
 曲独楽師の三増紋之助さんは、事務員として働く中、師匠の三増紋也さんに出会い、入門しました。
春風亭鹿の子さんも、浅草演芸ホールの職員出身で、女性真打ちとして活躍しています。
最近では、漫才師の福田純一さん。「カントリーズ」として東洋館の舞台に立っています。
「ここで、夢を実現する人がいる一方、残念ながら、芸人になれず田舎に帰ってしまう人も少なくありませんが……」と、少し寂しげに松倉さん。
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舞台で人を笑わせるなんて、並大抵のことではない。厳しい世界です。

年中無休で絶賛公演中。8月は浅草演芸ホールの季節です

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さて、前述の「住吉踊り」をはじめ、8月には浅草演芸ホールならではの公演が続きます。

8月上席(8月1~10日)昼の部では、三遊亭小遊三さん、春風亭昇太さんなどの噺家デキシーバンド「にゅうおいらんず」が生演奏を披露します。
浅草演芸ホールは、劇場を改装した小屋なので、作りが大きく、音楽イベントに向いているのです。
 8月中席(8月11~20日)、昼の部の大喜利では志ん朝さんが復活させた住吉踊りが観られます。浅草の夏の風物詩です。
また、毎年8月31日には、「爆笑王」初代林家三平さんの追善興行が行われ、ご子息の林家正蔵さん、2代目三平さんなど一門がそろいます。
もちろん、その前もその後も、浅草演芸ホール&東洋館では、365日公演が行われています。
テレビでお気に入りの芸人さんの出番をチェックするもよし、ただのんびり過ごすもよし。
最高の休日が待っていること請け合い。悩みごとなんて、きっとふっとんでしまいます。

浅草演芸ホール・東洋館へのアクセス

電話:03-3841-6545(浅草演芸ホール)/03-3841-6631(東洋館)

住所:東京都台東区浅草1-43-12 (六区ブロードウエイ 商店街中央)

東武スカイツリーライン・東京メトロ銀座線浅草駅から徒歩6分、都営地下鉄浅草駅から徒歩8分、つくばエクスプレス浅草駅すぐ。